2017年2月18日土曜日

中古音の学び方

早く現在の普通話の発音の話に移りたいのですが、もうしばらく中古音の話を続けたいと思います。


ネットの海は広大ですね。ネット上の資料だけで中古音は学べてしまいます。
今回はそんな、中古音を学ぶのに役に立つオンライン資料の紹介に徹したいと思います。



大雑把な言い方になりますが、切韻と韻鏡という二つの資料を突き合わせて複雑な音節表をつくり、それを現代の漢字文化圏の諸言語・諸方言との対応や発音を知る手がかりになる歴史的文献と比較することで中古音は復元されています。
近代的な学問として中古音の復元に取り組んだ最初の学者とされるのがスウェーデンのベルンハルト・カールグレンですが、江戸時代の日本の国学における中古音研究もなかなか大したものです。韻鏡というのは中国では長らく失われていて日本にのみ残っていたものが、近代になってから中国側にも知られるようになったものだそうです。


ともかく中古音の入門テキストとしては以下のものをお勧めします。わずか30ページちょっとの資料ですが、この練習問題をすべてやると一通りの知識は身につきます。
音韻学入門 −中古音篇 - 愛知県立大学 外国語学部(富山大学人文学部中国言語文化演習テキスト 1998)

上で紹介したテキストが書かれた1998年に比べて、オンライン上の資料はだいぶ充実しています。
例えば、韻典網では様々な韻書から漢字の発音を横断的に検索することができます。そのサイト内にある、韻鏡を広げた中古音の全音節表とも言うべき広韻の等韻圖を私はエクセルにコピーして並べなおして遊んでいたことがあるのですが、中古音の音節構造について知識が増した経験でした。

他には、韻鏡をオンラインで見やすいフォーマットにして公開しているサイトもあります。
WEB韻鏡

他に日本語のサイトでは漢字データベース内の宋本広韻データが便利です。


あとは、英語版のウィキペディアがけっこう詳しいです。




2017年2月5日日曜日

簡体字について

当ブログではなるべく漢字の発音に話の焦点を合わせたいのですが、やっぱり漢字というものの特徴として、字形の問題を避けて通ることはできないようです。

簡体字のなりたちについて調べてみると、異字体の整理によって画数の少ないものを採用したり、草書の字形を楷書の運筆方法で書けるように工夫したりと言った、伝統からそれほど外れていない要素も多くあります。

ただし音符(漢字の構成要素のうち音を表す部分)の入替えで作ったものについては問題です。

漢字の語源に関して中国語学者・藤堂明保が研究した単語家族説という考え方があります。音符が共通しているものは上古における発音が近く語源的なつながりある、という説です。例えば「青晴清」なんかは音も意味も互いに通じるところがある、という主張です。藤堂先生ご自身によると、清代の学者たちが挑んだテーマの一つが音符の共通性と語源的なつながりなんだそうです。
そして私はこの考え方が大好きで、その研究成果が反映されている漢和辞典である学研教育出版「漢字源」を愛用しています。

参考:漢字の語源研究 上古漢語の単語家族の研究 学燈社, 1963


いわゆる旧字体は康熙字典体と呼ばれる清朝期の字典に準拠したものが基礎となっていますが、装飾的な目的でやたら複雑な字形が採用されているという一面もあったと思います。藤堂先生も字形の簡素化や同音の漢字による書きかえを提唱していましたが、それはあくまで単語家族の枠内での話です。

単語家族の枠を飛び出してしまうとやり過ぎです。

たとえば「担」は「擔」の俗字として近世から使われており日本にも江戸時代には伝わっていました。現在では日本の新字体と中国の簡体字に両方に「担」が採用されています。
これは音符を「旦」に置き換えることによって作っていますが、中古音本来の「擔」の韻尾子音は-mなのに対し「旦」の韻尾子音は-nです。上古においては明確に区別されていたと考えられ、別の単語家族に属するものです。

中華人民共和国の成立後、現代語での発音のみに基いてこのような原理で新たに作られた簡体字は大量に存在します。これによって単語家族の枠組みが見えなくなってしまうというのは問題だと思います。

例えば「極」の簡体字は「极」です。「極」と「及」について、普通話での発音が共通していることを利用しての簡化により「极」という字形は生まれました。ここでこの2字について、日本漢字音(呉音・漢音)・広東話・普通話の発音を比べてみたいとおもいます。
極 ゴク・キョク gik6 / jí
及 ゴフ・キフ  kap6 / jí

こうしてみると普通話の事情のほうが特殊ですよね。
さらに「及吸汲級」などは語源的なつながりのある単語家族です。
(「扱」は会意文字なので違います)
ともかく「極」がこの仲間であるかのような字形になることに私は抵抗を感じるのです。

逆に、その他の字形の簡略化についてはとくに問題だとは思いません。
例えば「災 → 灾」は古い字形の中から字形が単純なものを採用したというパターンです。
「東 → 东」は草書の字形を楷書の運筆方法で書けるように整えたものです。
これらは漢字の伝統から大きく外れるものではないでしょう。

「漢 → 汉」「風 → 风」のように複雑な要素を単純なものや、「産 → 产」「廣 → 广」のように複雑な要素を取り去ってしまったものもありますが、音符の入替えほどは問題にならないと思います。


さて前置きが長くなりましたが、このような知識を前提に簡化字総表を眺めて見ましょう。
簡化字総表は第1~第3表と付録から成り立っています。
付録は二つの部分に分けることができます。はじめの部分では簡体字の制定に先立って行われた異体字の整理の結果、現在では簡体字とみなされるようになった39の文字について整理しています。次に、簡体字の制定に際して改められた各地の地名を列挙しています。

第1~第3表の内容は以下の通りになります。

  • 第1表:個別の字ごとに簡化された350字
  • 第2表:漢字の構成要素(偏旁)として使用できる簡体字132字と、単漢字としては存在しない偏旁14個の簡化した形
  • 第3表:第2表を適用した簡体字1753字


第1表の個別の簡化というのがまたやっかいです。繁体字と簡体字が一対一対応になっていないものも多くあるからです。
たとえば簡体字「干」に対応する繁体字は「乾幹」と記されていますが、実際には「干、乾、幹」の3字が繁体字に世界には存在しており、発音が一致・類似しているため「干」を代表として簡体字に採用しています。
一方で簡体字「复」は繁体字の「復複」2字に対応するものと記されていますが、こちらの場合は単純に2つの繁体字が同じ字形に簡化されています。

また、どこまでが異字体でどこからが別字なのかという判断が難しい場合もあります。たとえば現在の日本語では「箇」と「個」は別字として扱われていますが、繁体字の世界では異字体です。簡体字「个」に対する繁体字として「個」のみが記されていますが、日本語の「箇」に対する簡体字も「个」になります。

さて、具体的に見ていきましょう。まず「干」の簡化のような書き換えの要素の強いパターンのものを58字集めてみました。別字衝突が起きている場合もありますが詳しくは触れません。中には同音・類似音の漢字による書きかえというよりは異体字の整理に近いものもあります。
カッコ内には繁体字とともに声調記号を省略したピンインを示します。多音字(複数の読み方を持つ漢字)であるものも多いのですが、簡化に際して第一の発音として扱ったとみなせるものを示しています。


第1表のうち同音・類似音の漢字による書き換えの要素が強いもの
表 (錶 biao) 别 (彆 bie) 才 (纔 cai) 厂 (廠 chang) 冲 (衝 chong) 
丑 (醜 chou) 出 (齣 chu) 淀 (澱 dian) 斗 (鬥 dou) 范 (範 fan) 
干 (乾幹 gan) 赶 (趕 gan) 谷 (穀 gu) 刮 (颳 gua) 后 (後 hou) 
胡 (鬍 hu) 回 (迴 hui) 伙 (夥 huo) 卷 (捲 juan) 开 (開 kai) 
困 (睏 kun) 腊 (臘 la) 里 (裏 li) 了 (瞭 liao) 蒙 (矇濛懞 meng)
面 (麵 mian) 蔑 (衊 mie) 辟 (闢 pi) 仆 (僕 pu) 朴 (樸 pu) 
千 (韆 qian) 秋 (鞦 qiu) 曲 (麯 qu) 舍 (捨 sha) 沈 (瀋 shen) 
松 (鬆 song) 涂 (塗 tu) 系 (係繫 xi) 咸 (鹹 xian) 向 (嚮 xiang) 
须 (鬚 xu) 旋 (鏇 xuan) 叶 (葉 ye) 余 (餘 yu) 御 (禦 yu) 
吁 (籲 yu) 郁 (鬱 yu) 折 (摺 zhe) 征 (徵 zheng) 证 (證 zheng) 
只 (隻衹 zhi) 致 (緻 zhi) 制 (製 zhi) 朱 (硃 zhu) 筑 (築 zhu) 
准 (準 zhun) 板 (闆 ban) 合 (閤 he) 





次に、音符の入替えに作った要素の強いものを私の判断で集めてみました。簡化に際して新たに作られたものの他に清朝期までに使われていた俗字も含みます。
例えば「牺(犧)」はhiからxiに発音が変化した字ですが、西はsiからxiに変化したものです。ちょっとやり過ぎなのではないかと思います。


第1・第2表のうち音符の入替えのあるもの
(遲 chi) 础 (礎 chu) 牺 (犧 xi) 岂 (豈 qi) 积 (積 ji) 极 (極 ji) 
(幾 ji)  (劇 ju) 据 (據 ju) 惧 (懼 ju) 沪 (滬 hu) 护 (護 hu) 
(歷曆 li) 递 (遞 di) 肤 (膚 fu) 扑 (撲 pu) 毙 (斃 bi) 毕 (畢 bi) 
(蔔 bu) 补 (補 bu) 亿 (億 yi)  (憶 yi) 洒 (灑 sa) 虾 (蝦 xia) 
(嚇 xia) 价 (價 jia) 华 (華 hua)  (達 da) 发 (發髮 fa) 
(壩 ba) 袜 (襪 wa) 彻 (徹 che) 阶 (階 jie)   (癤 jie) 
(潔 jie) 跃 (躍 yue) 晒 (曬 shai) 怀 (懷 huai) 坏 (壞 huai)
(塊 kuai) 态 (態 tai) 柜 (櫃 gui) 霉 (黴 mei) 扰 (擾 rao) 
(膠 jiao)  (療 liao) 辽 (遼 liao) 袄 (襖 ao) 钥 (鑰 yao) 
(藥 yao) 沟 (溝 gou)  (構 gou) 购 (購 gou) 忧 (憂 you) 
(優 you) 犹 (猶 you) 蚕 (蠶 can)  (燦 can) 窜 (竄 cuan) 
(鑽 zuan) 忏 (懺 chan) 毡 (氈 zhan) 战 (戰 zhan) 
(憲 xian) 选 (選 xuan) 纤 (縴纖 qian) 迁 (遷 qian) 歼 (殲 jian) 
(艦 jian)  (環 huan) 还 (還 huan) 怜 (憐 lian) 
(擔 dan) 胆 (膽 dan) 矾 (礬 fan)  (園 yuan) 远 (遠 yuan) 
(認 ren) 审 (審 shen) 衬 (襯 chen) 邻 (鄰 lin)  (賓 bin) 
(醖 yun) 云 (雲 yun) 赃 (贜 zang) 脏 (臟髒 zang) 让 (讓 rang)
(莊 zhuang) 桩 (樁 zhuang) 响 (響 xiang) 粮 (糧 liang) 
(釀 niang)  (癢 yang) 样 (樣 yang) 胜 (勝 sheng) 惩 (懲 cheng) 
(癥 zheng)   (鐘鍾 zhong) 肿 (腫 zhong) 种 (種 zhong) 
(瓊 qing) 惊 (驚 jing)  (聽 ting) 厅 (廳 ting) 灯 (燈 deng) 
(蘋 ping)  (癰 yong) 拥 (擁 yong) 佣 (傭 yong) 
(戠 簡化偏旁)


また第1表と第2表の間の簡化方針の違いにより、同じ構成要素が別の形に簡化されてしまった例がいくつかあります。二つだけ例を紹介しておきます。
積(积)、績(绩)
過(过)、渦(涡)

2017年2月4日土曜日

日本の新旧字体について

私は簡体字で中国語学習を始め、ある程度まで進めたあとから繁体字を覚えました。

初めは簡体字に強い抵抗を覚えたものですが、現在の日本人に取って簡体字が読みにくい要因の半分くらいは異体字や草書体についての知識を学校教育で教えないことにあると私は考えています。例えば「無」の簡体字は「无」であることに私はなかなか慣れることができなかったのですが、昔の日本人が書き残した文献にもどちらの字体もよく使われています。
繁体字を学びはじめたころも「點」や「寫」になかなか慣れませんでしたね。


私が数えた常用漢字表には新旧字体が示されているものが362字あります。
しかし、いわゆる旧字旧仮名遣いの時代の本を読もうとするとこの知識だけでは足りなりないと思います。異字体に関する知識がもうちょと欲しいはずです。

そのへんの勉強になる参考書を以下に一冊挙げます。
旧字旧かな入門 (シリーズ日本人の手習い)(柏書房 2001/03)

そんなこんなで常用漢字表内の新旧字体の比較を以下にまとめました。
私は素人なので分類の仕方は大雑把なものです。適切でないところも多々あるかと思います。


別字衝突の問題については細かく挙げていけばきりがないと思うのですが、私が知っているのはこの程度です。
逆のパターンで「着」と「著」のようにもともと同じ漢字の異字体だったものが意味と読みの違いに応じて書き分けに使われるようになった場合もあります。

現在の日本語にはこの他にも同音の漢字による書きかえという問題があったりしますが、中国語の単語を学ぶときには中国語での漢字表現に依って記憶するので、あまり中国語学習上の問題にはならないと思います。



それでは以下に列挙します。



別字衝突が生じるもの
浜(濱) 医(醫) 欠(缺) 県(縣) 缶(罐) 旧(舊) 証(證) 芸(藝)
糸(絲) 虫(蟲) 体(體) 予(豫) 余(餘) 弁(瓣辨辯)


字形の違いが大きいもの
並(竝) 窃(竊) 献(獻) 実(實) 蚕(蠶) 尽(盡) 当(當) 辺(邊)
逓(遞) 猟(獵) 宝(寶) 国(國) 画(畫) 弥(彌) 闘(鬭) 点(點)
写(寫) 岳(嶽) 与(與) 党(黨) 円(圓) 双(雙) 台(臺) 塩(鹽)
称(稱) 鉄(鐵) 仮(假) 拠(據) 総(總) 昼(晝) 炉(爐)


部分の取出し
処(處) 価(價) 号(號) 声(聲)

読みを利用
図(圖) 庁(廳) 弐(貳) 痴(癡) 囲(圍) 灯(燈)


一部の要素の削除
臓(臟) 蔵(藏) 圧(壓) 応(應) 聴(聽) 覧(覽) 専(專) 恵(惠)
穂(穗) 団(團) 徳(德) 徴(徵) 懲(懲) 殻(殼) 穀(穀) 隆(隆)
器(器) 戻(戾) 抜(拔) 涙(淚) 突(突) 臭(臭) 類(類) 髪(髮)
暑(暑) 煮(煮) 緒(緖) 署(署) 者(者) 著(著) 諸(諸) 都(都)
殺(殺) 塚(塚) 逸(逸) 寛(寬) 暦(曆) 歴(歷) 懐(懷) 壊(壞)
撃(擊) 騒(騷) 条(條)


三つ重複する要素のうち二つを省略
参(參) 惨(慘) 畳(疊)

三つ重複する要素のうち二つをxのような形で置き換え
摂(攝) 渋(澁) 塁(壘)


その他、要素の入替えや簡素化
寿(壽) 鋳(鑄)
属(屬) 嘱(囑)
効(效) 勅(敕)
奨(奬) 将(將)
揺(搖) 謡(謠)
壌(壤) 嬢(孃) 譲(讓) 醸(釀)
単(單) 弾(彈) 戦(戰) 禅(禪)厳(嚴)  獣(獸)   労(勞) 営(營)
栄(榮) 蛍(螢) 巣(巢) 悩(惱)  脳(腦) 学(學)  覚(覺) 挙(擧)
誉(譽) 桜(櫻)
僧(僧) 増(增) 層(層) 憎(憎) 曽(曾) 贈(贈)
滝(瀧) 竜(龍)
砕(碎) 粋(粹) 酔(醉) 雑(雜)
緑(綠) 縁(緣) 録(錄)
戯(戲) 湿(濕) 顕(顯) 繊(纖) 虚(虛) 霊(靈)
変(變) 恋(戀) 湾(灣) 蛮(蠻)
壱(壹) 喝(喝) 掲(揭) 渇(渴) 褐(褐) 謁(謁)
仏(佛) 払(拂)
伝(傳) 転(轉)
争(爭) 浄(淨) 静(靜)
択(擇) 沢(澤) 訳(譯) 釈(釋) 駅(驛)
麦(麥) 麺(麵)
艶(艷) 豊(豐)礼(禮)
独(獨) 触(觸)
乱(亂) 辞(辭)
数(數) 楼(樓)
粛(肅) 断(斷) 歯(齒) 継(繼) 齢(齡) 奥(奧)
勧(勸) 権(權) 歓(歡) 観(觀)
真(眞) 慎(愼) 鎮(鎭)
廃(廢) 発(發)
堕(墮) 随(隨) 髄(髓)
欄(欄) 練(練) 錬(鍊)
児(兒) 稲(稻) 陥(陷)
担(擔) 胆(膽) 社(社) 祈(祈) 祉(祉) 祖(祖) 祝(祝) 神(神)
祥(祥) 禍(禍) 福(福) 秘(祕) 視(視)
剤(劑) 斉(齊) 済(濟) 斎(齋) 対(對)
来(來) 峡(峽) 挟(挾) 狭(狹)
併(倂) 塀(塀) 瓶(甁) 餅(餠)
巻(卷) 圏(圈)
帯(帶) 滞(滯)
渓(溪) 鶏(鷄) 潜(潛) 賛(贊)
径(徑) 経(經) 茎(莖) 軽(輕)
収(收) 叙(敍)
会(會) 絵(繪)
万(萬) 励(勵)
売(賣) 続(續) 読(讀)
区(區) 枢(樞) 欧(歐) 殴(毆) 駆(驅) 気(氣)
楽(樂) 薬(藥)
瀬(瀨) 頼(賴)
即(卽) 節(節) 郷(鄕) 響(響) 慨(慨) 既(既) 概(槪) 廊(廊)
朗(朗) 郎(郞)
暁(曉) 焼(燒)
広(廣) 拡(擴) 鉱(鑛)
従(從) 縦(縱)
桟(棧) 残(殘) 浅(淺) 践(踐)銭(錢)
碑(碑) 卑(卑)
歩(步) 渉(涉)
賓(賓) 頻(頻)
勉(勉) 晩(晚)
侮(侮) 悔(悔) 敏(敏) 梅(梅) 毎(每) 海(海) 繁(繁)
捜(搜) 痩(瘦) 届(屆)
勲(勳) 墨(墨) 薫(薰) 黒(黑) 黙(默)
乗(乘) 剰(剩)
亜(亞) 悪(惡)
倹(儉) 剣(劍) 検(檢) 険(險) 験(驗)
穏(穩) 隠(隱)
謹(謹) 勤(勤) 嘆(嘆) 横(橫) 漢(漢)難(難) 黄(黃)
亀(龜) 縄(繩)
壮(壯) 寝(寢) 状(狀) 荘(莊) 装(裝)
為(爲) 偽(僞)
両(兩) 満(滿)
恒(恆)
虜(虜)
挿(插)
免(免)
遅(遲)
覇(霸)
翻(飜)
拝(拜)
様(樣)
関(關)
温(溫)
犠(犧)
褒(襃)
衛(衞)
研(硏)
帰(歸)
盗(盜)

現在の漢字の音読みのカナ表記に関する問題

現在の日本語の漢字の音読みはカナ表記で説明されますよね。

ここで
中古音 → 歴史的な漢字音(字音仮名遣い) → 現在の音読み
という2段階の転写を想定します。

月の読みをゲツ・ガツとするようなものが現在の音読みで、グヱツ・グヮツとするようなものが歴史的な漢字音と呼びました。この歴史的な漢字音のことは単に字音と呼ぶことにしますが、漢和辞典ごとに多少の異同があります。
この字音を表記するための仮名遣いは字音仮名遣いと言います。基本は歴史的仮名遣いと共通していますが、大和言葉の歴史的仮名遣いではありえないような音の並びもあります。


江戸時代の国学者として有名な本居宣長は字音研究にも熱心でした。江戸時代における字音研究について調べてみると、中古音の復元という研究テーマがそもそも日本の国学の副産物のようにすら思えてきます。その話はいずれ別の記事でまとめたいと思います。

戦前のいわゆる旧字旧仮名遣いで表記が行われていた段階の日本では、漢字に読み仮名を振るときに字音仮名遣いを用いていました。

戦後、漢字の音読みは表音主義になりました。
いっぽう、大和言葉の語彙については「ぢ(ジ)、づ(ズ)、は(ワ)、を(オ)」など、実際の発音の区別に必要な書き分け以上の表義的な書き分けが残っています。


さて、字音仮名遣いから現在の表音主義的仮名遣いへの変化にまつわる問題をまとめてみたいと思います。



四つ仮名
ジとヂ、ズとヅの4文字を四つ仮名と言います。ヘボン式ローマ字では区別しませんが訓令式などの日本式系では区別するときがありますよね。

ヘボン式系  ジ ji、ヂ ji、ズ zu、ヅ zu
訓令式系   ジ zi、ヂ di、ズ zu、ヅ du

これは、日本語の音読みから中古音の声母を推測するときに混乱を招きます。
たとえば「地」「図」の2字は字音仮名遣いでは「地(チ・ヂ)」「図(ト・ズ)」(漢音・呉音)ですが、現在は「地図(チズ)」「地震(ジシン)」のように読み仮名をふります。ちなみに現在の普通では地図と地震はdìtú、dìzhènと発音しますが、字音仮名遣いから訓令式系のローマ字にしたtidu、disinのほうがヘボン式系のchizu、jishinよりも似ていますよね。

以前の記事で三十六字母と日本漢字音の対応に触れたときは四つ仮名を区別するものを想定しています。


合拗音の消失
昔は拗音には2種類あると考えられていたそうです。
ヤ行のものを開拗音、ワ行のものを合拗音などと呼ぶようですが、拗音でない音を直音と呼ぶそうです。

合拗音は現在では失われました。ワ行がそもそもワ一音のみをのこしてヰヱヲはア行のイエオと合流してしまいました。
ともかく字音仮名遣いの体系では以下のような合拗音と直音の対立がありました。カッコ内に字音仮名遣いに表記に添えて現在の普通話の発音も示します。

果(クヮ guǒ)、元(グヱン yuán)、鬼(クヰ guǐ)
歌(カ gē)、言(ゲン yán)、機(キ jī)

ちなみに直拗音も漢字の中古音の影響で日本語に定着したもので、それ以前の日本語になかったものだとする説があるそうです。ちなみに「狂(クヰャゥ kuáng)」のように開合どちらの拗音も備えていた字もあります。



韻尾子音-ng
伝統的な字音仮名遣とは異なる問題なので本当は今回の記事で扱うべきではないのですが、ついでに韻尾子音-ngに由来するウ・イを小書きでゥ・ィと書く方法についても少し触れたいと思います。ほとんどの漢和辞典では使われていないと思うのですが、ウィクショナリーの漢字項目などでよく見かけるので私も採用することにします。
これによって以下のような表記上の区別ができるようになります。普通話の発音も示します。
豆(トウ dòu)、西(セイ xī)
東(トゥ dōng)、星(セィ xīng)



ハ行転呼
奈良時代のハヒフヘホは現在のパピプペポのような、子音pをともなうものだったという説があります。ポルトガル式ローマ字ではハ行子音は一律にfで表されていることから16~17世紀のハヒフヘホはファフィフフェフォのような音だったのではないかと言われているようです。

語頭のハ行がハ行としての表記を保ったまま音が変化していったのに対し、語中・語末のハ行はワ行やア行に分かれていきました。現代仮名遣いで助詞の「は」をワと読む現象にのみ、その痕跡が残っています。「川(かは)→(かわ)」「言ふ→言う」のように表音主義的に改められました。

中古音の唇音の声母が字音仮名遣いでハ行に転写されたものは現在でもそのまま残っているのですが、入声韻尾-p由来の語末のフはウに変化しました。これにこの次に述べる二重母音の長音化の現象が合わさることで
合(ガフ hap6)→(ゴウ)
葉(エフ jip6)→(ヨウ)

のような変化が字音仮名遣いと現在の音読み表記の間で起こっています。上の例では参考までに広東語での辞書上の発音も字音仮名遣いに添えて示しました。

ちなみに三十六字母のhが日本漢字音のカ行で反映されているのは、当時のハ行のpよりはカ行のkのほうがhに近いと見做されたからだろうと言われているそうです。

余談ですが、このように日本語では唇で発音するpが喉で発音するhに変化したのとは逆に、広東語では喉で発音していたhやkが唇で発音するfに変化した場合があります。普通話・広東語の順で示すと「花(huā / faa1)」「課(kè / fo3)」などの例があり、この面に関しては広東語よりも普通話の方が古い発音の特徴を残しています。



二重母音の長音化
歴史的仮名遣いのアウ、イウ、エウはオー、ユー、ヨーと発音するように現在の国語教育では教えていますが、この規則は字音仮名遣いにも適用されます。そして表音主義的に表記がオウ、ユウ、ヨウと改められてしまいました。
構(コウ gòu)
高(カウ gāo)
のような対立が字音仮名遣いにはあったわけです。字音仮名遣いに添えて示したのは普通話での発音です。

エイも読みはほぼエーですが綴りは字音仮名遣いから変わっていません。
一説によると古代の日本語には長母音がなかったそうで、二重母音の長母音化は中世に頻繁に起こったらしいです。


撥音のム
ンと読む場合のムと言うものが歴史的仮名遣いにはありますが、漢字音の場合は韻尾子音-m由来のムが現在ではンと表記されます。
実は現在の普通話でも中古音の-mと-nは合流していますが、広東語では区別が残っています。字音仮名遣いで区別された例を一つ挙げます。括弧内には字音仮名遣い、普通話、広東語の順で示します。
心(シム xīn / sam1)
新(シン xīn / san1)



促音のッ
現在では小書きのッで促音を表しますが、字音仮名遣いではそうではありませんでした。例えば「学校」という単語でもガクカウと字音通りにふりがなをふっていたそうです。



さて、字音仮名遣いと現在の漢字の音読みの間で起きた問題の主なものは以上の通りです。


このほかにも中古音が字音仮名遣いに転写される時点で起きた問題や、慣用音や国字国訓、同音の漢字による書きかえなど、日本語表記における漢字使用についてはたくさんの問題がありますが、とりあえず触れないでおきます。

2017年1月26日木曜日

常用漢字表内の音読み

今回は平成22年内閣告示第2号の常用漢字表に示されている音読みを整理しました。
私が自力で整理したので間違いもあるかもしれません。

参考:常用漢字一覧

日本語の漢字の音読みにはいくつか特徴があります。
一つは音節の長さ。かならず一音か二音です。
もうひとつは、二音の読みの場合の二音目にくる音が非常に限られていることです。現在の仮名による表記法では
~イ、~ウ、~ン、~チ、~ツ、~キ、~ク、~ッ
の八種類しかありません。

あとは以下の一覧を見ていただければ分かるとおり、同じ読み方をする字が集中している場合とそうでない場合がありますね。
カン、キ、コウ、シ、ショウ、ソウ、トウ、などは特にそう読む字が多いものです。

さて、いちおう当ブログは日本語母語話者の中国語学習の役に立つものをめざしています。
出発点として、一般的な日本人が認識している漢字の読み方をまとめることには意味があると思っています。

現在の日本語においてあまりに特殊な読み方や馴染みのない文字に関する知識を整理してもあまり中国語学習の役には立たないと思うのですよね。

次回の記事では現在の仮名による音読み表記の問題点について整理してみたいと思います。




常用漢字の表内読み

ア   亜
アイ  哀愛挨曖
アン  安暗案行
アツ  圧
アク  悪握
イ   以位依偉囲委威尉意慰易椅為畏異移維緯胃萎衣違遺医唯彙
イン  因姻引飲淫院陰隠韻音
イチ  一壱
イツ  一逸
イキ  域
イク  育
ウ   右宇羽雨有
ウン  運雲
ウツ  鬱
エ   依会回絵恵
エイ  営影映栄永泳英衛詠鋭
エン  円園宴延怨援沿演炎煙猿縁艶遠鉛塩媛
エツ  悦謁越閲
エキ  易液疫益駅役
オ   悪汚和
オウ  凹央奥往応押旺横欧殴王翁黄皇桜
オン  怨遠恩温穏音
オツ  乙
オク  億屋憶臆


カ   渦下化仮何価佳加可夏嫁家寡科暇果架歌河火禍稼箇花苛荷華菓課貨過靴
カイ  介会解回塊壊快怪悔懐戒拐改械海灰界皆絵開階街潰楷諧
カン  乾冠寒刊勘勧巻喚堪完官寛干幹患感慣憾換敢棺款歓汗漢環甘監看管簡緩缶肝艦観貫還鑑間閑関陥韓館甲
カツ  割喝括活渇滑葛褐轄
カク  画嚇各拡格核殻獲確穫覚角較郭閣隔革客
カッ  合
ガ   我牙画芽賀雅餓瓦
ガイ  劾外害崖慨概涯蓋街該骸
ガン  丸含岸玩眼岩頑顔願元
ガツ  月
ガク  学岳楽額顎
ガッ  合
キ   企伎危喜器基奇寄岐希幾忌揮机旗既期棋棄機帰気汽畿祈季紀規記貴起軌輝飢騎鬼亀己毀
キン  僅勤均巾錦斤琴禁筋緊菌襟謹近金今
キチ  吉
キツ  吉喫詰
キク  菊
ギ   偽儀宜戯技擬欺犠疑義議
ギン  吟銀
キャ  脚
キャク 却客脚
ギャク 虐逆
キュウ 臼丘久休及吸宮弓急救朽求泣球究窮級糾給旧九嗅
ギュウ 牛
キョ  去居巨拒拠挙虚許距
キョウ 享京供競共凶協叫境峡強恐恭挟教橋況狂狭矯胸脅興郷鏡響驚兄経香
キョク 局曲極
ギョ  漁魚御
ギョウ 仰凝暁業形行
ギョク 玉
ク   久宮供九句区苦駆庫功口工紅貢
クウ  空
クン  勲君薫訓
クツ  屈掘窟
グ   具愚惧
グウ  宮偶遇隅
グン  群軍郡
ケ   化仮家華気懸
ケイ  京競境係傾刑兄啓型契形径恵慶憩掲携敬景渓稽系経継茎蛍計詣警軽鶏憬
ケン  間件倹健兼券剣圏堅嫌建憲懸拳検権犬献研絹県肩見謙賢軒遣鍵険顕験繭
ケツ  傑欠決潔穴結血
ゲ   下夏牙解外   
ゲイ  芸迎鯨
ゲン  眼嫌験元原厳幻弦減源玄現舷言限
ゲツ  月
ゲキ  劇撃激隙
コ   去拠虚個古呼固孤己庫弧戸故枯湖股虎誇雇顧鼓錮
コウ  黄格興仰後交侯候光公功効勾厚口向后喉坑好孔孝工巧幸広康恒慌抗拘控攻更校梗構江洪港溝甲皇硬稿紅絞綱耕考肯航荒行衡講貢購郊酵鉱鋼降項香高耗
コン  金建献今困墾婚恨懇昆根混痕紺魂
コツ  滑骨
コク  克刻告国穀酷黒石谷
ゴ   期五互午呉娯後御悟碁語誤護
ゴウ  強郷業剛号合拷豪傲
ゴン  勤権厳言
ゴク  極獄


サ   佐唆左差査沙砂詐鎖再作茶
サイ  債催再最塞妻宰彩才採栽歳済災采砕祭斎細菜裁載際財殺西切
サン  三傘参山惨散桟産算蚕賛酸
サツ  冊刷察拶撮擦札殺刹
サク  作削搾昨柵策索錯冊酢
サッ  早
ザ   座挫
ザイ  剤在材罪財
ザン  惨斬暫残
ザツ  雑
シ   仕伺使刺司史嗣四士始姉姿子市師志思指支施旨枝止死氏祉私糸紙紫肢脂至視詞詩試誌諮資賜雌飼歯次示自矢恣摯
シン  伸信侵唇娠寝審心慎振新森浸深申真神紳臣芯薪親診身辛進針震請津
シチ  七質
シツ  執失嫉室湿漆疾質叱
シキ  式識織色
ジ   餌仕事似侍児字寺慈持時次滋治璽磁示耳自辞除地
ジン  神臣人仁刃尋甚尽腎迅陣
ジツ  実日
ジキ  食直
ジク  軸
ジッ  十
シャ  砂舎写射捨赦斜煮社者謝車遮
シャク 借勺尺爵酌釈昔石赤
ジャ  蛇邪
ジャク 若寂弱着
シュ  主取守手朱殊狩珠種腫趣酒首修衆
シュウ 執囚収周宗就州修愁拾秀秋終習臭舟衆襲蹴週酬集醜祝袖羞
シュン 俊春瞬旬
シュツ 出
シュク 叔宿淑祝縮粛
ジュ  儒受呪寿授樹需就従
ジュウ 拾住充十従柔汁渋獣縦銃中
ジュン 准循旬殉準潤盾純巡遵順
ジュツ 術述
ジュク 塾熟
ショ  処初所暑庶緒署書諸
ショウ 井従傷償勝匠升召商唱奨宵将小少尚床彰承抄招掌昇昭晶松沼消渉焼焦照症省硝礁祥称章笑粧紹肖衝訟証詔詳象賞鐘障上姓性政星正清生精声青相装憧
ショク 嘱飾拭植殖織職色触食
ジョ  助叙女序徐除如
ジョウ 上丈乗冗剰城場壌嬢常情条浄状畳蒸譲醸錠成盛静定縄
ジョク 辱
ス   子主守須数素
スイ  出吹垂帥推水炊睡粋衰遂酔錘穂
スウ  崇数枢
スン  寸
ズ   事図豆頭
ズイ  随髄
セ   施世
セイ  井歳省情世凄制勢姓征性成政整星晴正清牲生盛精聖声製西誠誓請逝醒青静斉婿
セン  仙先千占宣専川戦扇栓泉浅洗染潜煎旋線繊羨腺船薦詮践選遷銭銑鮮箋
セチ  節
セツ  殺切拙接摂折設窃節説雪刹
セキ  寂隻席惜戚斥昔析石積籍績脊責赤跡夕
ゼ   是
ゼイ  税説
ゼン  前善漸然全禅繕膳
ゼツ  絶舌
ソ   塑措狙疎礎祖租粗素組訴阻遡想
ソウ  桑宗曽僧創双倉喪壮奏爽層想捜掃挿操早曹巣槽燥争痩相窓総草荘葬藻装走送遭霜騒贈踪
ソン  存孫尊損村遜
ソツ  卒率
ソク  塞促側則即息捉束測足速
ゾ   曽
ゾウ  雑象像増憎臓蔵贈造
ゾン  存
ゾク  俗属賊族続

タ   他多太汰
タイ  太体堆対耐帯待怠態戴替泰滞胎袋貸退逮隊代台大
タン  丹単嘆担探旦淡炭短端綻胆誕鍛壇反
タツ  達
タク  卓宅択拓沢濯託度
ダ   蛇唾堕妥惰打駄
ダイ  代台大第題弟内
ダン  旦団壇弾断暖段男談
ダツ  奪脱
ダク  濁諾
チ   治質値知地恥池痴稚置致遅緻
チン  朕沈珍賃鎮陳
チツ  秩窒
チク  築畜竹蓄逐
チャ  茶
チャク 嫡着
チュウ 沖中仲宙忠抽昼柱注虫衷酎鋳駐
チョ  緒著貯
チョウ 澄丁兆帳庁弔張彫徴懲挑朝潮町眺聴脹腸調超跳長頂鳥釣貼嘲
チョク 勅捗直
ツ   通都
ツイ  対墜椎追
ツウ  痛通
テイ  体丁亭低停偵貞呈堤定帝底庭廷弟抵提程締艇訂諦逓邸
テン  典天展店添転点殿塡
テツ  哲徹撤迭鉄
テキ  摘敵滴的笛適
デ   弟
デイ  泥
デン  伝殿田電
デキ  溺
ト   図吐塗妬徒斗渡登賭途都度土頭
トウ  稲登倒党冬凍刀唐塔島悼投搭東桃棟盗湯灯当痘等答筒糖統到藤討謄豆踏逃透陶頭騰闘道読納
トン  団屯豚頓
トツ  凸突
トク  匿得徳特督篤読
ド   努度土奴怒
ドウ  動同堂導洞瞳童胴道銅
ドン  曇鈍貪
ドク  毒独読


ナ   奈那南納
ナイ  内
ナン  男南軟難納
ナッ  納
ニ   児仁二尼弐
ニン  人任妊忍認
ニチ  日
ニク  肉
ニャク 若
ニュウ 柔乳入
ニョ  女如
ニョウ 女尿
ネイ  寧
ネン  然年念捻燃粘
ネツ  熱
ノウ  悩濃納能脳農

 ハ   把覇波派破
ハイ  俳廃拝排敗杯背肺輩配
ハン  坂阪伴判半反帆搬斑板氾汎版犯班畔繁般藩販範煩頒飯凡
ハチ  八鉢
ハツ  鉢発髪
ハク  伯博拍泊白舶薄迫剝
ハッ  法
バ   婆罵馬
バイ  倍培媒梅買売賠陪
バン  伴判板晩番盤蛮万
バチ  罰
バツ  伐罰抜閥末
バク  博漠爆縛麦暴幕
ヒ   卑否妃彼悲扉批披比泌疲皮碑秘罷肥被費避非飛
ヒン  品浜貧賓頻
ヒツ  泌匹必筆
ビ   備尾微眉美鼻
ビン  貧敏瓶便
ヒャク 百
ビャク 白
ヒョウ 拍俵標氷漂票表評兵
ビョウ 猫描病秒苗平
フ   不付夫婦富布府怖扶敷普浮父符腐膚譜負賦赴阜附風歩訃
フウ  夫富封風
フン  分噴墳憤奮粉紛雰
フツ  払沸
フク  伏副復幅服福腹複覆
ブ   不侮武舞部歩奉無
ブン  分文聞
ブツ  仏物
ヘイ  病丙併兵塀幣平弊柄並蔽閉陛餅
ヘン  偏変片編辺返遍
ヘキ  壁癖璧
ベイ  米
ベン  便弁
ベツ  別蔑
ホ   歩
ホウ  封奉法
ホン  反
ホツ  発
ホッ  法
ボ   模
ボウ  亡坊暴望謀妄
ボン  煩凡
ボク  木目
ボッ  坊

マイ  米
マン  万
マツ  末
マク  幕
ミ   眉
ミョウ 冥名命明
ム   武謀無
メイ  冥名命明
モ   模
モウ  亡望妄耗
モン  文聞
モツ  物
モク  木目

ヤク  疫益役
ユウ  由遊
ユイ  遺唯由
ユウ  右有由遊


ライ  来雷頼礼
ラク  楽絡落酪
リン  鈴
リチ  
リツ  律率立
リキ  
リュウ 立流留
リョウ 漁糧霊
リョク 力緑
ル   流留
レイ  礼鈴霊
ロ   露
ロウ  糧露
ロク  緑
 
ワ   和

2017年1月19日木曜日

十六摂と韻母の輪郭

今回は中古音の韻母と日本漢字音の対応の導入です。

なるべく現在の日本語の漢字の音読みと、現在の普通話の字音から中古音に遡っていくようなアプローチでこのブログ全体を構成したかったのですが、日本漢字音の韻母については例外としましょう。

日本語の中で歴史的に起こった音韻変化や現在の日本語の書記体系が抱えている諸問題についてはいずれまた別の記事でまとめたいと思うのですが、今回あつかう日本漢字音というのは歴史的仮名遣いのような、いわゆる字音仮名遣いで書かれるものです。


さて、中古音の韻母に関しては十六摂という分類方法があります。
ウィキペディアへのリンクを仕込んでおきましたが、これはすべての韻母を十六種類の摂という単位に分けるものです。

この考え方では主母音の種類で内転と外転の二つに分け、韻尾の種類で7種類に分けます。

主母音については、日本語の母音とはおおむね
内転:オ、ウ、イ
外転:ア、エ

で対応します。外転の一部はオに反映されます。

ただしこれはあくまで歴史的な字音仮名遣いにおいての場合です。
例えば「葉」という字の音読みは現在ではヨウですが、字音仮名遣いではエフです。
このように日本語のなかの音韻変化によって、外転から内転に変化した字は多いのですよね。
面白いことに中国語の方でも、現在の普通話に到るまでに外転から内転に変化した字がたくさんあります。この辺の話はまた後日。


韻尾は陰声韻、陽声韻、入声韻の3種類に分けられます。
陰声韻はゼロ韻尾-øと母音韻尾-i, -uの3種類からなります。
陽声韻は4種類の鼻音韻尾からなるのですが、これを私は-m, -n, -ng, -ngwと表そうと思います。

入声韻の説明の前に声調の話をしなければならないのですが、中古音には平声、上声、去声、入声の四声がありました。現在の普通話の第一声から第四声も四声と呼ばれていますが、内容が違います。

中古音の四声を二分する考え方に平仄によるものと舒促によるものとがあります。
平仄とは
平声:平声
仄声:上声、去声、入声
のように二分するもので、漢詩の規則に関して非常に重要なものです。

一方、舒促にわけると
舒声:平声、上声、去声
促声:入声
となります。

日本漢字音には舒促の対立ははっきり反映されています。
英字で-nと-tのように書いてしまうと別の音素に見えますが、伝統的な音韻学では同じ音素の声調違いのものとして考えられていました。
入声韻の閉鎖音韻尾-p, -t, -k, -kwは陽声韻の-m, -n, -ng, -ngwに対応します。

あれ、2種類の主母音と7種類の韻尾で分けるなら2×7で14の摂として説明できるんじゃないの?
私もそう思ったんですが、外転の摂の一部には主母音の種類でさらに細かく分類しているところが2個所あり、十六摂が成り立っています。
十六摂を韻尾ごとに分ける説明の仕方には文献によって異同がありますので、私が示すものはその一例です。


十六摂はそれぞれの摂に属する字を使って表すわけなんですが、現代日本で言語生活を送る我々には馴染みのない字や音読みが思い浮かびにくいものも含まれています。
そこで私は、十六摂を以下のような記号で表すことを提案します。

通摂:{ONGW} {OKW}
江摂:{ANGW} {AKW}
止摂:{I}
遇摂:{O}
蟹摂:{AI}
臻摂:{ON}
山摂:{AN}
效摂:{AU}
果摂:{A}
仮摂:{AE}
宕摂:{ANG} {AK}
梗摂:{AENG} {AEK}
曾摂:{ONG} {OK}
流摂:{OU}
深摂:{IM} {IP}
咸摂:{AM} {AP}


こいつを表1-表3にまとめてみます。あくまで基本的な対応ですので例外はあります。

表1.陰声韻の摂.

-i

-イ
-u

-ウ
内転

オ,ウ,イ
{O} {I} {OU}
外転

ア,エ
{A, AE} {AI} {AU}


表2.陽声韻の摂.

-m

-ム
-n

-ン
-ng

-ゥ・ィ
-ngw

-ゥ
内転

オ,ウ,イ
{IM} {ON} {ONG} {ONGW}
外転

ア,エ
{AM} {AN} {ANG, AENG} {ANGW}


表3.入声韻の摂.

-p

-フ
-t

-ツ・チ
-k

-ク・キ
-kw

-ク
内転

オ,ウ,イ
{IP} {OT} {OK} {OKW}
外転

ア,エ
{AP} {AT} {AK, AEK} {AKW}




ここから雑談です。

現在の中国語の韻尾子音-ngのもとになった中古音の韻尾子音には二種類ありました。わたしはそれをここで-ngと-ngwのように書き分けることにしました。これらはその後ほとんどの漢字文化圏で合流していきますが、ベトナム語では一部に区別が残っています。クオック・グー(国語)と呼ばれるラテン文字による現在のベトナム語の正書法では-nhと-ngという綴りの区別があります。

ただしベトナム語の場合も上の表2で示した別れ方とは異なります。これらの韻尾子音のベトナム漢字音との対応は以下の通りです。
通摂{ONGW}、江摂{ANGW}、宕摂{ANG}、曾摂{ONG}  → -ng
梗摂{AENG} → -nh

入声の場合も同様に
通摂{OKW}、江摂{AKW}、宕摂{AK}、曾摂{OK}  → -c
梗摂{AEK} → -ch
と対応しています。


ベトナム語のラテン文字表記はフランス人の宣教師によって考案され、フランスによる植民地支配を経て確立されたため「フランス人からの贈り物」などと説明されることもありますが、正体はポルトガル語式のアルファベットをもとにしたものです。フランス語式のアルファベットを元にしたものだと誤解してはいけません。
考案した宣教師は出身地こそフランスであるもののイエズス会士であり、ベトナム語をラテン語およびポルトガル語で説明した辞書を編纂しています。

ベトナム語にはハノイ方言とサイゴン方言の2つの有力な方言があるのですが、クオック・グーの綴りはそのどちらとも違う、もっと古い時代の発音に基いているようで、調べてみると面白いです。

ちなみにベトナム漢字が中国中古音と直接つながっていることを明らかにしたのは三根谷徹という日本の言語学者です。その著書『中古漢語と越南漢字音(汲古書院 1993年)』は私も読んだことがありますが、なかなか感動しました。


もう一つ雑談ですけが、ラテン文字による日本語の表記方法を最初に確立したのもイエズスの人たちで、こちらもポルトガル語式のアルファベットが元になっています。簡単に紹介しているサイトとしてはこんなところを見つけました。

日葡辞書をはじめ、彼らの残したローマ字資料は中世日本語を研究する上で重要な資料だそうです。
私は日葡辞書の影印本も一度手に取ったことがありますし、『日葡辞書提要(森田 武、清文堂出版 1993年)』という本も一読いたしましたが、自分の母語について理解が深められた経験でした。

現在のベトナム語のクオック・グーの綴りには歴史的な発音の変化の痕跡が残っているのですが、日本語のポルトガル式ローマ字がそのまま残っていたらそれに近い状況になっていたことでしょう。

雑談が長くなりましたが、今日のところはこの辺で失礼します。

2017年1月9日月曜日

中国語(普通話)の音節表

今回の記事では、中国語(普通話)の音節表(表1 - 8)を掲載します。
声母・介音の組み合わせを立ての軸に、韻母から介音を除いた部分(韻摂)を横の軸にとってまとめています。55×11の大きな表になってしまうので声母の分類によって表を8つに分けました。表全体としては605種類の音節がありえることになってしまいますが、実際には410マスだけ埋まっています。

とにかく中国語の教科書でよくある、声母を一方の軸に取って、もう一方の軸に介音を含めた韻母を取る音節表よりも、私にとってはこの方が見やすくなります。

橙色のセル色で示したbiang, tei, dia, rua, nia, yaiは、権威ある辞書では認められていない方言的な音節です。

赤色の文字色で示した音節は、ピンインの仕組み上、声母・介音・韻摂の組み合わせにより綴り字が変化する規則が適用されたものです。

全開の記事でまとめたようにo, e, êには相補分布性があるのですが、例外が生じる位置を青色のセル色で示しています。カッコ内に記したほうが例外的な音節です。

それから表8のゼロ声母・ゼロ介音・ゼロ韻摂となる位置にerという音節を起きましたが、本来あるべき位置はここではありません。座りがいいので空いているこの場所においてしまいました。
歴史的な発音の変化を考えるとriとerは表中の同じ位置にあるべきです。

またこれらのほかに、m, n, ng, hm, hngという母音を含まない音節も存在するのですが、感嘆詞や擬声語のような字に限られるため当ブログでは扱いません。

なお、参考にしたウィキペディアの記事はこちらです:漢語ピン音音節一覧


表1.ハ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
bbabobaibeibaobanbenbangbeng
ppapopaipeipaopoupanpenpangpeng
ffafofeifoufanfenfangfeng
bubu
pupu
fufu
bibibiebiaobianbinbiangbing
pipipiepiaopianpinping



表2.タ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
ddadedaideidaodoudandendangdeng
ttatetaiteitaotoutantangteng
dududuoduiduandundong
tututuotuituantuntong
dididiadiediaodiudianding
tititietiaotianting



表3.サ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
zzizazezaizeizaozouzanzenzangzeng
ccicacecaicaocoucancencangceng
ssisasesaisaosousansensangseng
zuzuzuozuizuanzunzong
cucucuocuicuancuncong
sususuosuisuansunsong



表4.サ・タ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
zhzhizhazhezhaizheizhaozhouzhanzhenzhangzheng
chchichachechaichaochouchanchenchangcheng
shshishasheshaisheishaoshoushanshenshangsheng
zhuzhuzhuazhuoshuaizhuishuanzhunzhuangzhong
chuchuchuachuochuaichuichuanchunchuangchong
shushushuashuoshuaishuishuanshunshuang



表5.カ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
ggagegaigeigaogougangenganggeng
kkakekaikeikaokoukankenkangkeng
hhahehaiheihaohouhanhenhangheng
guguguaguoguaiguiguangunguanggong
kukukuakuokuaikuikuankunkuangkong
huhuhuahuohuaihuihuanhunhuanghong



表6.カ・サ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
jijijiajiejiaojiujianjinjiangjing
qiqiqiaqieqiaoqiuqianqinqiangqing
xixixiaxiexiaoxiuxianxinxiangxing
jüjujuejuanjunjiong
qüququequanqunqiong
xüxuxuexuanxunxiong



表7.鼻音・流音類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
mmamo, (me)maimeimaomoumanmenmangmeng
nnanenaineinaonounannennangneng
llale, (lo)laileilaoloulanlangleng
rrireraorouranrenrangreng
mumu
nununuonuannong
lululuoluanlunlong
rururuaruoruiruanrunrong
mimimiemiaomiumianminming
nininianieniaoniunianninniangning
lililialieliaoliulianlinliangling
nünüe
lülüe



表8.ゼロ声母の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
øerae, (o), (ê)aieiaoouanenangeng
uwuwawowaiweiwanwenwangweng
iyiyaye, (yo)yaiyaoyouyanyinyangying
yuyueyuanyunyong