例によって、実用的な発音については東外大のサイト等の音声が聞けるところで学んでください。
音節を構成する要素から声母と声調を除いた部分をここでは韻母と呼びます。
たとえば江という字の読みjiāngであればiangの部分を韻母と呼んでいます。
まずは基本の母音についてです。
単母音
一般的な中国語の入門書では、中国の母音は単母音と二重母音、三重母音の3種類があると教えていると思います。
基本となる単母音は以下の6つとされます。
i, u, ü
a, o, e
おそらくüはドイツ語の綴字法を参考にして決めたものなのでしょう。基本的な中国式のパソコンのキーボードはUS配置と同じなのですが、üの入力にはvをあてます。
しかし実は,注音ではもう一つ単母音を表す字母が用意されています。
ピンインでもその母音を特に表す場合はêという表記を用います。
符号なしのeはあいまい母音/ə/、こちらのêは日本語のエだと思っていればとりあえずいいと思います。
個人的には、単母音は本当は7つとして教えるべきという立場を取りたいです。
また、単母音として説明されている母音でも音声学的に正確に分析するとやや二重母音がかって発音されるものもあのですが、その話は当ブログでは触れません。
二重母音
二重母音には、主母音が後半にあるもの5種類
ia, ie
ua, uo
üe
と、主母音が前半にあるもの4種類
ai, ei
ao, ou
の合計9種類があります。
ここでieとüeのなかのeは、本来はêです。帽子のような記号を省略しても区別に困らないのでピンインの体系では省略することになっています。しかし注音では明確に区別しています。
また、主母音が後半にある二重母音のうち、前半の弱く発音されるi, u, üの部分を介音と言います。
このi, u, üは単独で韻母を形成することもできれば、介音になることもある母音です。介母という呼び方を見たこともあります。
三重母音
主母音が前半にある二重母音に介音をつけたものが三重母音です。以下の4つです。
uai, uei
iao, iou
ここで、ピンインの仕組み上
uei → ui
iou → iu
のように省略して書くことが行われます。ただしゼロ声母の場合にはそれぞれwei, youと綴ります。
四呼
介音i, u, üを含む韻母を斉歯呼、合口呼、撮口呼、そしてそれ以外の韻母を開口呼と言います。またi, u, üが介音ではなく単独で韻母を形成する場合もそれぞれ斉歯呼、合口呼、撮口呼と呼びます。このような4種類の分類を四呼と言います。
この四呼をさらに表1のように2種類ずつ、開口・合口あるいは洪音・細音にまとめる場合があります。
表1.四呼の分類.
開口 | 合口 | |
洪音 | 開口呼 (ø-) | 合口呼 (u-) |
細音 | 斉歯呼 (i-) | 撮口呼 (ü-) |
鼻音韻尾
中国語の韻尾子音は歴史的に合流・消失を繰り返してきました。
現在の普通話にはn, ngの2種類のみが残っています。
主母音が前半にある二重母音に鼻音韻尾が付くことはないので、開口呼ぶのan, en, ang, engとそれらに介音が付いたものとして整理できます。
普通話の韻母のまとめ
表2に、普通話で認められている全ての韻母をまとめます。
スラッシュで区切られているものは、左側がゼロ声母の場合で右側がそれ以外の場合の綴り方です。詳しくは説明しませんが、表内ではi+en → inのような、省略した表記方法の規則があります。
また、母音aを含むものを外転、それ以外を内転と呼ぶ伝統的な用語があり、ここではそれを取り入れています。
表2.普通話の韻母の一覧(ピンイン).
表2に、普通話で認められている全ての韻母をまとめます。
スラッシュで区切られているものは、左側がゼロ声母の場合で右側がそれ以外の場合の綴り方です。詳しくは説明しませんが、表内ではi+en → inのような、省略した表記方法の規則があります。
また、母音aを含むものを外転、それ以外を内転と呼ぶ伝統的な用語があり、ここではそれを取り入れています。
表2.普通話の韻母の一覧(ピンイン).
内外転
|
韻尾
| 四呼 | |||
開口呼 (ø-) | 斉歯呼 (i-) | 合口呼 (u-) | 撮口呼 (ü-) | ||
外転
|
-ø
|
a
|
ya / -ia
|
wa / -ua
| |
-i
|
ai
|
wai / -uai
| |||
-u (o)
|
ao
|
yao / -iao
| |||
-n
|
an
|
yan / -ian
|
wan / -uan
|
yuan / -üan
| |
-ng
|
ang
|
yang / -iang
|
wang / -uang
| ||
内転
|
-ø
|
er / (-i)
| yi / -i | wu / -u |
yu / -ü
|
e, o
|
ye / ie
|
wo / -uo
|
yue / -üe
| ||
-i
|
ei
|
wei / -ui
| |||
-u (o)
|
ou
|
you / -iu
| |||
-n
|
en
|
yin / -in
|
wen / -un
|
yun / -ün
| |
-ng
|
eng
|
ying / -ing
|
weng / -ong
|
yong / -iong
|
- ong、iongは、注音の仕組み上ではu+eng、ü+engのように表記します。資料によってはピンイン表記のみに基づいてong、iongを開口呼、斉歯呼と呼んでいることもありますが、私は注音表記に基づいて合口呼、撮口呼と呼ぶ立場のほうを取ります。
- ian, üanのaは発音上はêに変化します。しかし注音でもi+an, ü+anのように表記します。
- ここまでで説明しませんでしたが内転・開口呼のerは韻母というよりはそれ単体で字音を形成する字母です。二や耳など日本語の漢音でジ、呉音で二と読む字に相当します。
- また内転・開口呼の(-i)は、注音では韻母を伴わず声母のみで発音するように綴られるものです。これに相当するのはzi, ci, si, zhi, chi, shi, riの7種類の音節です。これらの声母には斉歯呼のiが組み合わさることがないので、このように表記しても区別できるのです。
注音との対応
注音では、韻母を表すための字母が16種存在します。直接ピンインに対応させると
以下のようになります。
介母: i, u, ü
単母音: a, o, e, ê
母音韻尾:ai, ei, ao, ou
鼻音韻尾:an, en, ang, eng
その他: er
母音o, e, êの相補分布性
相補分布が何かきちんと説明しようとすると面倒なのですが、今Weblioで三省堂の大辞林による定義を調べてみました。以下にコピペします:
特定言語内で,複数の音が互いに生じる環境を異にして重複することがない場合,これらすべての音を同一の音素に属すものとみなす音素論上の作業仮説の一つ。例えば日本語では「ン」に該当する [m, n, ŋ, ɴ] などが,それぞれ両唇音の前のみ([m]),歯音および歯茎音の前のみ([n]),軟口蓋音の前のみ([ŋ]),語末のみ([ɴ])というように互いに生じる環境を異にするところから,これらを同一の音素 /N/ に属する異音とみなす。相補的分布。
普通話の韻母の話に戻りますが、o, e, êには相補分布性があります。
まずこれらの主母音と介音との組み合わせを表3にまとめます。
表3.母音o, e, êと四呼.
この時点でもうかなり分布が重ならないことがはっきりします。
表3ではoとeがまだ同じ位置にありますが、これらは声母との組み合わせに関して相補的に分布しています。開口呼のoは唇音のみと組み合わさりbo, po, mo, foという音節を形成しますがそれ以外は原則的にありえません。逆にbe, pe, me, feは原則的にはありえません。
ただし例外的にme, lo, yo、それからゼロ声母のo, êという音節はありえることになっています。
この中でもmeは学習の初期段階でかならず覚える什么(shénme なに)という語に現れる、使用頻度の高いものです。
しかしながら、これらの音節が現れるのは声調が失われた軽声の場合に限られており、母音弱化現象として捉えるべきだと思います。ゆえに当ブログでは例外的なものとして扱います。
なおbo, po, mo, foの4種類の音節についてはピンインや注音の表記上は韻母はoだが、実際の発音では韻母はuoだという説もあります。
もう一つ余談ですが、ian, üanのaとieやüeのêは今でも同じ発音ですが、もともと同じ母音として考えるのが妥当なようです。このieやüeは歴史的にはietやüetのように後ろに-p, -tのような子音があったものが大半です。このためianやüanを外転、ietやüetを内転として別に分類することについて、私はやや抵抗を感じます。
注音の開発の歴史上、e(ㄜ)ははじめ存在せず、あとからo(ㄛ)の字形を一部変形させて作っています。このことに対してê(ㄝ)ははっきりとした別の符号です。
歴史的な四呼と声母
あんまり深入りはしませんが、中古音の韻母については一等から四等までの4段階に分ける等呼という分類方法と、開口と合口に二分する考え方(開口と合口の対立を持たない場合もある)とがありました。
時代が下って実際の話し言葉の発音を分類するのにこの分類モデルを適用するのは適切ではなくなって四呼という考え方が編み出されたという経緯があります。
現在の中国語教育で四呼という場合には、上述のように韻母の部分のみに注目するようです。しかし中古音では韻母だけではなく声母も考えて等呼を決定していました。
普通話が成立する前の近代の中国語でも、四呼を決定するのに声母の影響もあったようです。
これに関して個人的な経験を少し紹介します。
香港航空で旅行していたとき、機内食をポークにするかチキンにするか、明らかに母語が広東語の客室乗務員に聞かれたことがあります。普通話で「猪肉还是鸡肉?」と言われました。
この猪(ブタ)の発音は普通話ではzhūなのですが、その客室乗務員の発音した音は私の耳にはzǖと聞こえました。声母と韻母の組み合わせについては次回の記事で紹介しますが、そんな音節は普通話にはありません。
ポイントの一つは、そり舌音に相当する声母がない方言は広東語を含めて数多くあり、そういう方言が母語の人が普通話を話す際にはzh, ch, sh → z, c, sというように訛るということです。
もう一つのポイントは母音の訛り方です。前述の訛り方の規則だけでいえば、zhuはzuとなるべきなのに、なぜzüに聞こえるような音になったのか。現在のピンインや注音の綴り方の仕組み上zhuは合口呼だが、声母まで含めて撮口呼と考えるほうが相応しいのではないか。私はそんな風に思いました。
さて、今回の記事はこの辺で切り上げます。
以下、参考になるウィキペディアの項目を挙げておきます。
四呼
韻母
韻尾
注音符号
なんかここまでだとウィキペディアのまとめ直しみたいになっていますが、もうちょっとちゃんとした文献も一応読んでるんですよ?
主母音 | 開口呼 (ø-) | 斉歯呼 (i-) | 合口呼 (u-) | 撮口呼 (ü-) |
o | o, e | uo | ||
e | ||||
ê | ie | üe |
この時点でもうかなり分布が重ならないことがはっきりします。
表3ではoとeがまだ同じ位置にありますが、これらは声母との組み合わせに関して相補的に分布しています。開口呼のoは唇音のみと組み合わさりbo, po, mo, foという音節を形成しますがそれ以外は原則的にありえません。逆にbe, pe, me, feは原則的にはありえません。
ただし例外的にme, lo, yo、それからゼロ声母のo, êという音節はありえることになっています。
この中でもmeは学習の初期段階でかならず覚える什么(shénme なに)という語に現れる、使用頻度の高いものです。
しかしながら、これらの音節が現れるのは声調が失われた軽声の場合に限られており、母音弱化現象として捉えるべきだと思います。ゆえに当ブログでは例外的なものとして扱います。
なおbo, po, mo, foの4種類の音節についてはピンインや注音の表記上は韻母はoだが、実際の発音では韻母はuoだという説もあります。
注音の開発の歴史上、e(ㄜ)ははじめ存在せず、あとからo(ㄛ)の字形を一部変形させて作っています。このことに対してê(ㄝ)ははっきりとした別の符号です。
歴史的な四呼と声母
あんまり深入りはしませんが、中古音の韻母については一等から四等までの4段階に分ける等呼という分類方法と、開口と合口に二分する考え方(開口と合口の対立を持たない場合もある)とがありました。
時代が下って実際の話し言葉の発音を分類するのにこの分類モデルを適用するのは適切ではなくなって四呼という考え方が編み出されたという経緯があります。
現在の中国語教育で四呼という場合には、上述のように韻母の部分のみに注目するようです。しかし中古音では韻母だけではなく声母も考えて等呼を決定していました。
普通話が成立する前の近代の中国語でも、四呼を決定するのに声母の影響もあったようです。
これに関して個人的な経験を少し紹介します。
香港航空で旅行していたとき、機内食をポークにするかチキンにするか、明らかに母語が広東語の客室乗務員に聞かれたことがあります。普通話で「猪肉还是鸡肉?」と言われました。
この猪(ブタ)の発音は普通話ではzhūなのですが、その客室乗務員の発音した音は私の耳にはzǖと聞こえました。声母と韻母の組み合わせについては次回の記事で紹介しますが、そんな音節は普通話にはありません。
ポイントの一つは、そり舌音に相当する声母がない方言は広東語を含めて数多くあり、そういう方言が母語の人が普通話を話す際にはzh, ch, sh → z, c, sというように訛るということです。
もう一つのポイントは母音の訛り方です。前述の訛り方の規則だけでいえば、zhuはzuとなるべきなのに、なぜzüに聞こえるような音になったのか。現在のピンインや注音の綴り方の仕組み上zhuは合口呼だが、声母まで含めて撮口呼と考えるほうが相応しいのではないか。私はそんな風に思いました。
さて、今回の記事はこの辺で切り上げます。
以下、参考になるウィキペディアの項目を挙げておきます。
四呼
韻母
韻尾
注音符号
なんかここまでだとウィキペディアのまとめ直しみたいになっていますが、もうちょっとちゃんとした文献も一応読んでるんですよ?
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