2017年1月26日木曜日

常用漢字表内の音読み

今回は平成22年内閣告示第2号の常用漢字表に示されている音読みを整理しました。
私が自力で整理したので間違いもあるかもしれません。

参考:常用漢字一覧

日本語の漢字の音読みにはいくつか特徴があります。
一つは音節の長さ。かならず一音か二音です。
もうひとつは、二音の読みの場合の二音目にくる音が非常に限られていることです。現在の仮名による表記法では
~イ、~ウ、~ン、~チ、~ツ、~キ、~ク、~ッ
の八種類しかありません。

あとは以下の一覧を見ていただければ分かるとおり、同じ読み方をする字が集中している場合とそうでない場合がありますね。
カン、キ、コウ、シ、ショウ、ソウ、トウ、などは特にそう読む字が多いものです。

さて、いちおう当ブログは日本語母語話者の中国語学習の役に立つものをめざしています。
出発点として、一般的な日本人が認識している漢字の読み方をまとめることには意味があると思っています。

現在の日本語においてあまりに特殊な読み方や馴染みのない文字に関する知識を整理してもあまり中国語学習の役には立たないと思うのですよね。

次回の記事では現在の仮名による音読み表記の問題点について整理してみたいと思います。




常用漢字の表内読み

ア   亜
アイ  哀愛挨曖
アン  安暗案行
アツ  圧
アク  悪握
イ   以位依偉囲委威尉意慰易椅為畏異移維緯胃萎衣違遺医唯彙
イン  因姻引飲淫院陰隠韻音
イチ  一壱
イツ  一逸
イキ  域
イク  育
ウ   右宇羽雨有
ウン  運雲
ウツ  鬱
エ   依会回絵恵
エイ  営影映栄永泳英衛詠鋭
エン  円園宴延怨援沿演炎煙猿縁艶遠鉛塩媛
エツ  悦謁越閲
エキ  易液疫益駅役
オ   悪汚和
オウ  凹央奥往応押旺横欧殴王翁黄皇桜
オン  怨遠恩温穏音
オツ  乙
オク  億屋憶臆


カ   渦下化仮何価佳加可夏嫁家寡科暇果架歌河火禍稼箇花苛荷華菓課貨過靴
カイ  介会解回塊壊快怪悔懐戒拐改械海灰界皆絵開階街潰楷諧
カン  乾冠寒刊勘勧巻喚堪完官寛干幹患感慣憾換敢棺款歓汗漢環甘監看管簡緩缶肝艦観貫還鑑間閑関陥韓館甲
カツ  割喝括活渇滑葛褐轄
カク  画嚇各拡格核殻獲確穫覚角較郭閣隔革客
カッ  合
ガ   我牙画芽賀雅餓瓦
ガイ  劾外害崖慨概涯蓋街該骸
ガン  丸含岸玩眼岩頑顔願元
ガツ  月
ガク  学岳楽額顎
ガッ  合
キ   企伎危喜器基奇寄岐希幾忌揮机旗既期棋棄機帰気汽畿祈季紀規記貴起軌輝飢騎鬼亀己毀
キン  僅勤均巾錦斤琴禁筋緊菌襟謹近金今
キチ  吉
キツ  吉喫詰
キク  菊
ギ   偽儀宜戯技擬欺犠疑義議
ギン  吟銀
キャ  脚
キャク 却客脚
ギャク 虐逆
キュウ 臼丘久休及吸宮弓急救朽求泣球究窮級糾給旧九嗅
ギュウ 牛
キョ  去居巨拒拠挙虚許距
キョウ 享京供競共凶協叫境峡強恐恭挟教橋況狂狭矯胸脅興郷鏡響驚兄経香
キョク 局曲極
ギョ  漁魚御
ギョウ 仰凝暁業形行
ギョク 玉
ク   久宮供九句区苦駆庫功口工紅貢
クウ  空
クン  勲君薫訓
クツ  屈掘窟
グ   具愚惧
グウ  宮偶遇隅
グン  群軍郡
ケ   化仮家華気懸
ケイ  京競境係傾刑兄啓型契形径恵慶憩掲携敬景渓稽系経継茎蛍計詣警軽鶏憬
ケン  間件倹健兼券剣圏堅嫌建憲懸拳検権犬献研絹県肩見謙賢軒遣鍵険顕験繭
ケツ  傑欠決潔穴結血
ゲ   下夏牙解外   
ゲイ  芸迎鯨
ゲン  眼嫌験元原厳幻弦減源玄現舷言限
ゲツ  月
ゲキ  劇撃激隙
コ   去拠虚個古呼固孤己庫弧戸故枯湖股虎誇雇顧鼓錮
コウ  黄格興仰後交侯候光公功効勾厚口向后喉坑好孔孝工巧幸広康恒慌抗拘控攻更校梗構江洪港溝甲皇硬稿紅絞綱耕考肯航荒行衡講貢購郊酵鉱鋼降項香高耗
コン  金建献今困墾婚恨懇昆根混痕紺魂
コツ  滑骨
コク  克刻告国穀酷黒石谷
ゴ   期五互午呉娯後御悟碁語誤護
ゴウ  強郷業剛号合拷豪傲
ゴン  勤権厳言
ゴク  極獄


サ   佐唆左差査沙砂詐鎖再作茶
サイ  債催再最塞妻宰彩才採栽歳済災采砕祭斎細菜裁載際財殺西切
サン  三傘参山惨散桟産算蚕賛酸
サツ  冊刷察拶撮擦札殺刹
サク  作削搾昨柵策索錯冊酢
サッ  早
ザ   座挫
ザイ  剤在材罪財
ザン  惨斬暫残
ザツ  雑
シ   仕伺使刺司史嗣四士始姉姿子市師志思指支施旨枝止死氏祉私糸紙紫肢脂至視詞詩試誌諮資賜雌飼歯次示自矢恣摯
シン  伸信侵唇娠寝審心慎振新森浸深申真神紳臣芯薪親診身辛進針震請津
シチ  七質
シツ  執失嫉室湿漆疾質叱
シキ  式識織色
ジ   餌仕事似侍児字寺慈持時次滋治璽磁示耳自辞除地
ジン  神臣人仁刃尋甚尽腎迅陣
ジツ  実日
ジキ  食直
ジク  軸
ジッ  十
シャ  砂舎写射捨赦斜煮社者謝車遮
シャク 借勺尺爵酌釈昔石赤
ジャ  蛇邪
ジャク 若寂弱着
シュ  主取守手朱殊狩珠種腫趣酒首修衆
シュウ 執囚収周宗就州修愁拾秀秋終習臭舟衆襲蹴週酬集醜祝袖羞
シュン 俊春瞬旬
シュツ 出
シュク 叔宿淑祝縮粛
ジュ  儒受呪寿授樹需就従
ジュウ 拾住充十従柔汁渋獣縦銃中
ジュン 准循旬殉準潤盾純巡遵順
ジュツ 術述
ジュク 塾熟
ショ  処初所暑庶緒署書諸
ショウ 井従傷償勝匠升召商唱奨宵将小少尚床彰承抄招掌昇昭晶松沼消渉焼焦照症省硝礁祥称章笑粧紹肖衝訟証詔詳象賞鐘障上姓性政星正清生精声青相装憧
ショク 嘱飾拭植殖織職色触食
ジョ  助叙女序徐除如
ジョウ 上丈乗冗剰城場壌嬢常情条浄状畳蒸譲醸錠成盛静定縄
ジョク 辱
ス   子主守須数素
スイ  出吹垂帥推水炊睡粋衰遂酔錘穂
スウ  崇数枢
スン  寸
ズ   事図豆頭
ズイ  随髄
セ   施世
セイ  井歳省情世凄制勢姓征性成政整星晴正清牲生盛精聖声製西誠誓請逝醒青静斉婿
セン  仙先千占宣専川戦扇栓泉浅洗染潜煎旋線繊羨腺船薦詮践選遷銭銑鮮箋
セチ  節
セツ  殺切拙接摂折設窃節説雪刹
セキ  寂隻席惜戚斥昔析石積籍績脊責赤跡夕
ゼ   是
ゼイ  税説
ゼン  前善漸然全禅繕膳
ゼツ  絶舌
ソ   塑措狙疎礎祖租粗素組訴阻遡想
ソウ  桑宗曽僧創双倉喪壮奏爽層想捜掃挿操早曹巣槽燥争痩相窓総草荘葬藻装走送遭霜騒贈踪
ソン  存孫尊損村遜
ソツ  卒率
ソク  塞促側則即息捉束測足速
ゾ   曽
ゾウ  雑象像増憎臓蔵贈造
ゾン  存
ゾク  俗属賊族続

タ   他多太汰
タイ  太体堆対耐帯待怠態戴替泰滞胎袋貸退逮隊代台大
タン  丹単嘆担探旦淡炭短端綻胆誕鍛壇反
タツ  達
タク  卓宅択拓沢濯託度
ダ   蛇唾堕妥惰打駄
ダイ  代台大第題弟内
ダン  旦団壇弾断暖段男談
ダツ  奪脱
ダク  濁諾
チ   治質値知地恥池痴稚置致遅緻
チン  朕沈珍賃鎮陳
チツ  秩窒
チク  築畜竹蓄逐
チャ  茶
チャク 嫡着
チュウ 沖中仲宙忠抽昼柱注虫衷酎鋳駐
チョ  緒著貯
チョウ 澄丁兆帳庁弔張彫徴懲挑朝潮町眺聴脹腸調超跳長頂鳥釣貼嘲
チョク 勅捗直
ツ   通都
ツイ  対墜椎追
ツウ  痛通
テイ  体丁亭低停偵貞呈堤定帝底庭廷弟抵提程締艇訂諦逓邸
テン  典天展店添転点殿塡
テツ  哲徹撤迭鉄
テキ  摘敵滴的笛適
デ   弟
デイ  泥
デン  伝殿田電
デキ  溺
ト   図吐塗妬徒斗渡登賭途都度土頭
トウ  稲登倒党冬凍刀唐塔島悼投搭東桃棟盗湯灯当痘等答筒糖統到藤討謄豆踏逃透陶頭騰闘道読納
トン  団屯豚頓
トツ  凸突
トク  匿得徳特督篤読
ド   努度土奴怒
ドウ  動同堂導洞瞳童胴道銅
ドン  曇鈍貪
ドク  毒独読


ナ   奈那南納
ナイ  内
ナン  男南軟難納
ナッ  納
ニ   児仁二尼弐
ニン  人任妊忍認
ニチ  日
ニク  肉
ニャク 若
ニュウ 柔乳入
ニョ  女如
ニョウ 女尿
ネイ  寧
ネン  然年念捻燃粘
ネツ  熱
ノウ  悩濃納能脳農

 ハ   把覇波派破
ハイ  俳廃拝排敗杯背肺輩配
ハン  坂阪伴判半反帆搬斑板氾汎版犯班畔繁般藩販範煩頒飯凡
ハチ  八鉢
ハツ  鉢発髪
ハク  伯博拍泊白舶薄迫剝
ハッ  法
バ   婆罵馬
バイ  倍培媒梅買売賠陪
バン  伴判板晩番盤蛮万
バチ  罰
バツ  伐罰抜閥末
バク  博漠爆縛麦暴幕
ヒ   卑否妃彼悲扉批披比泌疲皮碑秘罷肥被費避非飛
ヒン  品浜貧賓頻
ヒツ  泌匹必筆
ビ   備尾微眉美鼻
ビン  貧敏瓶便
ヒャク 百
ビャク 白
ヒョウ 拍俵標氷漂票表評兵
ビョウ 猫描病秒苗平
フ   不付夫婦富布府怖扶敷普浮父符腐膚譜負賦赴阜附風歩訃
フウ  夫富封風
フン  分噴墳憤奮粉紛雰
フツ  払沸
フク  伏副復幅服福腹複覆
ブ   不侮武舞部歩奉無
ブン  分文聞
ブツ  仏物
ヘイ  病丙併兵塀幣平弊柄並蔽閉陛餅
ヘン  偏変片編辺返遍
ヘキ  壁癖璧
ベイ  米
ベン  便弁
ベツ  別蔑
ホ   歩
ホウ  封奉法
ホン  反
ホツ  発
ホッ  法
ボ   模
ボウ  亡坊暴望謀妄
ボン  煩凡
ボク  木目
ボッ  坊

マイ  米
マン  万
マツ  末
マク  幕
ミ   眉
ミョウ 冥名命明
ム   武謀無
メイ  冥名命明
モ   模
モウ  亡望妄耗
モン  文聞
モツ  物
モク  木目

ヤク  疫益役
ユウ  由遊
ユイ  遺唯由
ユウ  右有由遊


ライ  来雷頼礼
ラク  楽絡落酪
リン  鈴
リチ  
リツ  律率立
リキ  
リュウ 立流留
リョウ 漁糧霊
リョク 力緑
ル   流留
レイ  礼鈴霊
ロ   露
ロウ  糧露
ロク  緑
 
ワ   和

2017年1月19日木曜日

十六摂と韻母の輪郭

今回は中古音の韻母と日本漢字音の対応の導入です。

なるべく現在の日本語の漢字の音読みと、現在の普通話の字音から中古音に遡っていくようなアプローチでこのブログ全体を構成したかったのですが、日本漢字音の韻母については例外としましょう。

日本語の中で歴史的に起こった音韻変化や現在の日本語の書記体系が抱えている諸問題についてはいずれまた別の記事でまとめたいと思うのですが、今回あつかう日本漢字音というのは歴史的仮名遣いのような、いわゆる字音仮名遣いで書かれるものです。


さて、中古音の韻母に関しては十六摂という分類方法があります。
ウィキペディアへのリンクを仕込んでおきましたが、これはすべての韻母を十六種類の摂という単位に分けるものです。

この考え方では主母音の種類で内転と外転の二つに分け、韻尾の種類で7種類に分けます。

主母音については、日本語の母音とはおおむね
内転:オ、ウ、イ
外転:ア、エ

で対応します。外転の一部はオに反映されます。

ただしこれはあくまで歴史的な字音仮名遣いにおいての場合です。
例えば「葉」という字の音読みは現在ではヨウですが、字音仮名遣いではエフです。
このように日本語のなかの音韻変化によって、外転から内転に変化した字は多いのですよね。
面白いことに中国語の方でも、現在の普通話に到るまでに外転から内転に変化した字がたくさんあります。この辺の話はまた後日。


韻尾は陰声韻、陽声韻、入声韻の3種類に分けられます。
陰声韻はゼロ韻尾-øと母音韻尾-i, -uの3種類からなります。
陽声韻は4種類の鼻音韻尾からなるのですが、これを私は-m, -n, -ng, -ngwと表そうと思います。

入声韻の説明の前に声調の話をしなければならないのですが、中古音には平声、上声、去声、入声の四声がありました。現在の普通話の第一声から第四声も四声と呼ばれていますが、内容が違います。

中古音の四声を二分する考え方に平仄によるものと舒促によるものとがあります。
平仄とは
平声:平声
仄声:上声、去声、入声
のように二分するもので、漢詩の規則に関して非常に重要なものです。

一方、舒促にわけると
舒声:平声、上声、去声
促声:入声
となります。

日本漢字音には舒促の対立ははっきり反映されています。
英字で-nと-tのように書いてしまうと別の音素に見えますが、伝統的な音韻学では同じ音素の声調違いのものとして考えられていました。
入声韻の閉鎖音韻尾-p, -t, -k, -kwは陽声韻の-m, -n, -ng, -ngwに対応します。

あれ、2種類の主母音と7種類の韻尾で分けるなら2×7で14の摂として説明できるんじゃないの?
私もそう思ったんですが、外転の摂の一部には主母音の種類でさらに細かく分類しているところが2個所あり、十六摂が成り立っています。
十六摂を韻尾ごとに分ける説明の仕方には文献によって異同がありますので、私が示すものはその一例です。


十六摂はそれぞれの摂に属する字を使って表すわけなんですが、現代日本で言語生活を送る我々には馴染みのない字や音読みが思い浮かびにくいものも含まれています。
そこで私は、十六摂を以下のような記号で表すことを提案します。

通摂:{ONGW} {OKW}
江摂:{ANGW} {AKW}
止摂:{I}
遇摂:{O}
蟹摂:{AI}
臻摂:{ON}
山摂:{AN}
效摂:{AU}
果摂:{A}
仮摂:{AE}
宕摂:{ANG} {AK}
梗摂:{AENG} {AEK}
曾摂:{ONG} {OK}
流摂:{OU}
深摂:{IM} {IP}
咸摂:{AM} {AP}


こいつを表1-表3にまとめてみます。あくまで基本的な対応ですので例外はあります。

表1.陰声韻の摂.

-i

-イ
-u

-ウ
内転

オ,ウ,イ
{O} {I} {OU}
外転

ア,エ
{A, AE} {AI} {AU}


表2.陽声韻の摂.

-m

-ム
-n

-ン
-ng

-ゥ・ィ
-ngw

-ゥ
内転

オ,ウ,イ
{IM} {ON} {ONG} {ONGW}
外転

ア,エ
{AM} {AN} {ANG, AENG} {ANGW}


表3.入声韻の摂.

-p

-フ
-t

-ツ・チ
-k

-ク・キ
-kw

-ク
内転

オ,ウ,イ
{IP} {OT} {OK} {OKW}
外転

ア,エ
{AP} {AT} {AK, AEK} {AKW}




ここから雑談です。

現在の中国語の韻尾子音-ngのもとになった中古音の韻尾子音には二種類ありました。わたしはそれをここで-ngと-ngwのように書き分けることにしました。これらはその後ほとんどの漢字文化圏で合流していきますが、ベトナム語では一部に区別が残っています。クオック・グー(国語)と呼ばれるラテン文字による現在のベトナム語の正書法では-nhと-ngという綴りの区別があります。

ただしベトナム語の場合も上の表2で示した別れ方とは異なります。これらの韻尾子音のベトナム漢字音との対応は以下の通りです。
通摂{ONGW}、江摂{ANGW}、宕摂{ANG}、曾摂{ONG}  → -ng
梗摂{AENG} → -nh

入声の場合も同様に
通摂{OKW}、江摂{AKW}、宕摂{AK}、曾摂{OK}  → -c
梗摂{AEK} → -ch
と対応しています。


ベトナム語のラテン文字表記はフランス人の宣教師によって考案され、フランスによる植民地支配を経て確立されたため「フランス人からの贈り物」などと説明されることもありますが、正体はポルトガル語式のアルファベットをもとにしたものです。フランス語式のアルファベットを元にしたものだと誤解してはいけません。
考案した宣教師は出身地こそフランスであるもののイエズス会士であり、ベトナム語をラテン語およびポルトガル語で説明した辞書を編纂しています。

ベトナム語にはハノイ方言とサイゴン方言の2つの有力な方言があるのですが、クオック・グーの綴りはそのどちらとも違う、もっと古い時代の発音に基いているようで、調べてみると面白いです。

ちなみにベトナム漢字が中国中古音と直接つながっていることを明らかにしたのは三根谷徹という日本の言語学者です。その著書『中古漢語と越南漢字音(汲古書院 1993年)』は私も読んだことがありますが、なかなか感動しました。


もう一つ雑談ですけが、ラテン文字による日本語の表記方法を最初に確立したのもイエズスの人たちで、こちらもポルトガル語式のアルファベットが元になっています。簡単に紹介しているサイトとしてはこんなところを見つけました。

日葡辞書をはじめ、彼らの残したローマ字資料は中世日本語を研究する上で重要な資料だそうです。
私は日葡辞書の影印本も一度手に取ったことがありますし、『日葡辞書提要(森田 武、清文堂出版 1993年)』という本も一読いたしましたが、自分の母語について理解が深められた経験でした。

現在のベトナム語のクオック・グーの綴りには歴史的な発音の変化の痕跡が残っているのですが、日本語のポルトガル式ローマ字がそのまま残っていたらそれに近い状況になっていたことでしょう。

雑談が長くなりましたが、今日のところはこの辺で失礼します。

2017年1月9日月曜日

中国語(普通話)の音節表

今回の記事では、中国語(普通話)の音節表(表1 - 8)を掲載します。
声母・介音の組み合わせを立ての軸に、韻母から介音を除いた部分(韻摂)を横の軸にとってまとめています。55×11の大きな表になってしまうので声母の分類によって表を8つに分けました。表全体としては605種類の音節がありえることになってしまいますが、実際には410マスだけ埋まっています。

とにかく中国語の教科書でよくある、声母を一方の軸に取って、もう一方の軸に介音を含めた韻母を取る音節表よりも、私にとってはこの方が見やすくなります。

橙色のセル色で示したbiang, tei, dia, rua, nia, yaiは、権威ある辞書では認められていない方言的な音節です。

赤色の文字色で示した音節は、ピンインの仕組み上、声母・介音・韻摂の組み合わせにより綴り字が変化する規則が適用されたものです。

全開の記事でまとめたようにo, e, êには相補分布性があるのですが、例外が生じる位置を青色のセル色で示しています。カッコ内に記したほうが例外的な音節です。

それから表8のゼロ声母・ゼロ介音・ゼロ韻摂となる位置にerという音節を起きましたが、本来あるべき位置はここではありません。座りがいいので空いているこの場所においてしまいました。
歴史的な発音の変化を考えるとriとerは表中の同じ位置にあるべきです。

またこれらのほかに、m, n, ng, hm, hngという母音を含まない音節も存在するのですが、感嘆詞や擬声語のような字に限られるため当ブログでは扱いません。

なお、参考にしたウィキペディアの記事はこちらです:漢語ピン音音節一覧


表1.ハ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
bbabobaibeibaobanbenbangbeng
ppapopaipeipaopoupanpenpangpeng
ffafofeifoufanfenfangfeng
bubu
pupu
fufu
bibibiebiaobianbinbiangbing
pipipiepiaopianpinping



表2.タ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
ddadedaideidaodoudandendangdeng
ttatetaiteitaotoutantangteng
dududuoduiduandundong
tututuotuituantuntong
dididiadiediaodiudianding
tititietiaotianting



表3.サ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
zzizazezaizeizaozouzanzenzangzeng
ccicacecaicaocoucancencangceng
ssisasesaisaosousansensangseng
zuzuzuozuizuanzunzong
cucucuocuicuancuncong
sususuosuisuansunsong



表4.サ・タ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
zhzhizhazhezhaizheizhaozhouzhanzhenzhangzheng
chchichachechaichaochouchanchenchangcheng
shshishasheshaisheishaoshoushanshenshangsheng
zhuzhuzhuazhuoshuaizhuishuanzhunzhuangzhong
chuchuchuachuochuaichuichuanchunchuangchong
shushushuashuoshuaishuishuanshunshuang



表5.カ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
ggagegaigeigaogougangenganggeng
kkakekaikeikaokoukankenkangkeng
hhahehaiheihaohouhanhenhangheng
guguguaguoguaiguiguangunguanggong
kukukuakuokuaikuikuankunkuangkong
huhuhuahuohuaihuihuanhunhuanghong



表6.カ・サ行類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
jijijiajiejiaojiujianjinjiangjing
qiqiqiaqieqiaoqiuqianqinqiangqing
xixixiaxiexiaoxiuxianxinxiangxing
jüjujuejuanjunjiong
qüququequanqunqiong
xüxuxuexuanxunxiong



表7.鼻音・流音類の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
mmamo, (me)maimeimaomoumanmenmangmeng
nnanenaineinaonounannennangneng
llale, (lo)laileilaoloulanlangleng
rrireraorouranrenrangreng
mumu
nununuonuannong
lululuoluanlunlong
rururuaruoruiruanrunrong
mimimiemiaomiumianminming
nininianieniaoniunianninniangning
lililialieliaoliulianlinliangling
nünüe
lülüe



表8.ゼロ声母の音節.
øao, e, êaieiaoouanenangeng
øerae, (o), (ê)aieiaoouanenangeng
uwuwawowaiweiwanwenwangweng
iyiyaye, (yo)yaiyaoyouyanyinyangying
yuyueyuanyunyong